竜馬命名の由来について

明治十六年に書かれた竜馬最初の伝記である『汗血千里駒』にはこう書かれているそうだ。 母親の幸が竜馬を出産する前夜のことだった。夢の中で庭の梅の梢から竜が現れて天に駆け登るのを見た。 そのため「竜馬」という名前が付けられた、と言う。
また、大正十五年の『雋傑坂本龍馬』ではこう書かれている。 父親が天から駆け下りてきた黄金の馬が懐中に入る夢を、また母親が昇天する竜の吐く赤い炎が胎内に入る夢を 見たことから名づけられたという。
話ができすぎてにわかには信じられない。後世の人間が作り上げた伝説であろう。

ところで、「竜馬」(りょうば、たつのま、りょうま)というのは、古代中国の思想による竜と馬が 交わったとされる架空の生き物だ。
竜の血の混ざった馬で、一駆千里も走ると言う天馬だ。 その思想は日本にも古くから入っていて、万葉集にも出てくる。 太宰師大伴卿(だざいのそちおおとものまえつきみ)が奈良にいるいとしい人(丹生女王ともいわれる)に送った歌
竜の馬も今も得てしかあおによし奈良の都に行きて来んため

そして、その返歌
竜の馬を我れは求めむあおによし奈良の都に来む人のたに

「竜馬」があれば奈良の都に今すぐにでもいけるのになあと言うと
私も奈良の都に来る人のために竜馬を求めたい
と返している。

このように、「竜馬」の俊足には奈良時代から人々はあこがれていた。
坂本竜馬は、実名が直柔(なおなり)。竜馬は通称である。
通称は実名のほかに、元服の際に親に付けてもらう名のこと。